【おすすめ漫画紹介】「夏待ち」【あとり硅子さん】

漫画紹介

今回ご紹介するお話は「夏待ち」。

このサイトでは、あとり硅子さんの作品は一覧で一度紹介しています(詳細はこちら)。

が、あとり硅子さんの作品については、1つ1つご紹介したいと思ったので「夏待ち」から順次ご紹介していくことにしました。

今回ご紹介している「夏待ち」はWINGS COMICSの表題作として収録されています。

「伝えたいこと」をユーモアの中に散りばめて届けるあとり硅子さんの作品はどれも温かさが溢れています。

『よつばと!』や『あずまんが大王』を描かれているあずまきよひこさんの作品がお好きな方は、あとりさんの作品もお好きになるのでは?と思います。

あとり硅子さんの作品が未読、という方には儚そうなタッチの奥にある「芯の強さ」、ぜひ感じていただきたいと思います。

「夏待ち」

今日ご紹介している「夏待ち」の初出は「ウィングス別冊」橘皆無特集号です。

WINGS COMICS『夏待ち』の表題作であり、コミックスの表紙は物語の主人公 稔くん(高校生)です。

「夏待ち」は私が初めて目にしたあとり硅子さんの作品であり、あとりさんの作品の中で今でも大好きな作品の1つです。

コミックス『夏待ち』には表題作以外に、次の作品も収録されています。(※リンクがついているものには、詳細を書いた別記事があります)

seagreen
英雄
眠れない夜
月夜のチェリーボーイ
ハッピーゴーラッキー
・四ツ谷渋谷入谷雑司ヶ谷

上記のうち、「眠れない夜」はあとり硅子さんのデビュー作で、「月夜のチェリーボーイ」はその続編となっています。

「眠れない夜」の主人公、かれんさんのポジティブさ・強さは一見の価値あり、です。

あとり硅子さんについては、Wikipediaでどうぞ。


「山のあなたの空とおく」

「夏待ち」の主人公は高校生の男の子、浅倉 稔。

明日から夏休みというある日、稔くんは一週間、母方の実家(結構田舎)へ行くことになります。これは実に10年ぶりのこと。

どうして10年もの間、稔くんが母の実家に行かなかったのか。

それは「いとこの克也くんに嫌われている」(と稔が思い込んでいた)から。

しかし稔くんは「克也くんに嫌わている(との思い込み)」を10年の間にすっかり忘れてしまっています。

その理由になった出来事のことも、すっぽり。

なぜ自分が10年も母の実家を避けていたのかは、克也くんと実際顔を合わせたことで徐々に記憶によみがえってきます。

10年前、克也くんと遊びに出た田舎道で、元気な克也くんについていけなくなった稔くんは、道の途中で置いてけぼりにされてしまいます。

見知らぬ土地に取り残された稔くんが泣いていた時、彼を助けて一緒に遊んでくれた子。

そうだった、あの時、自分を助けてくれた存在がいたじゃないか!

10年前に歩いた道をたどりながら、記憶をよみがえらせていく稔くん。

この「稔くんを助けてくれた存在」とは八尋狐という神様の使いで……。

八尋は10年前に一緒に遊んだ稔が、再び自分を訪ねてくれることをずっと待っていました。

10年ぶりに再会した稔くんと八尋。

八尋は稔くんのおかげで「自分は消えずに済んだ」と言いますが、そこには克也くんが大きく関わっていて……。

3人のコミカルな会話と、時折はさまれる克也くんのお母さんのポジティブバイオレンスな様子は一見するとコメディですが、奥にある「人ならざるもの」への温かい気持ちを、ぜひ感じ取ってもらいたいと思います。

見えぬけれども「そこに在るもの」

あとり硅子さんの作品には、この「夏待ち」に限らず「人外」のものが頻繁に登場します。

ただどの作品に登場する「人外」のものに対しても、あとり硅子さんの視点はとても優しいです。

「夏待ち」に登場するのは「誰もその存在を信じる人がいなくなれば消えてしまう」運命の、小さな社の眷属です。

この作品を読んでいると

「きっとこの国には、そうして消えてしまった小さな神様たちがたくさんいるんだろうな」

とふと、思いを馳せてしまう。

「夏待ち」はそんな作品です。

この世界にはたとえ目には見えなくても、私たちを見守ってくれている存在がいて、その存在はきっといつも身近にいる。

そうした存在を「信じる心をもてるかどうか」というのは、人間の心の余裕な気がします。

科学を否定するわけでは一切ありませんが、他者に対する「畏怖の念」の抱く、というのは、現代の私たちが失ってしまっていて、今何より必要な心持ちだと私は思います。

八尋狐がやさしく空気の中で笑っていられる世界は、私たち人間にとっても、他者への思いやりを忘れない温かい世界になるはず。

あとり硅子さんの遺してくださった作品は、私たち人間が失いかけている「世界へのやさしさ」を思い出させてくれます。

コミックス版「夏待ち」あとり硅子さん

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