【おすすめ漫画紹介】「夏待ち」他 作品一覧【あとり硅子さん】

漫画紹介

2004年夏、大好きな作家さんが逝去されました。

高校生の頃にその人の最初の作品に出逢ってから8年目のことでした。

今回は、今も大好きで私にとって大切な作家さんである“あとり硅子さん”の作品についてご紹介していきます。

あとりさんの作品を読むと「見えない物」「自分とは異なる存在」への優しさを感じることができるでしょう。


あとり硅子さんについて

あとり硅子さんがその生涯で発表されているコミックスは8冊(その他に4冊、短編集としてコミックスが発売されています)。

基本的なプロフィールは次の通りです。

あとり 硅子(あとり けいこ、1969年9月20日 ‐ 2004年7月6日)
日本の漫画家。長崎県出身。血液型はAB型。

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/あとり硅子

プロフィールの西暦からすると、亡くなられたのは35歳になる前……。

この文章を書いているこの時もとても寂しく、惜しい気持ちを隠し切れません……。

細い筆致で描かれるあとりさんの世界。そこからはどの場面も「その場」の“空気感”が溢れてました。

そしてどの作品の根底にも、優しさと隠されたシニカルさが光っていました。

きっと知性と感受性の豊かな人なのだろうな、というのがあとり硅子さんの作品を読んだ第一印象でした。

あとり硅子さんの作品と収録作品(全4巻の短編集は含みません)

ここからはあとり硅子さんのコミックスと、そのコミックスに収録されている作品をご紹介していきます。

「夏待ち」1996年発売

コミック掲載作品:夏待ち/seagreen/英雄/眠れない夜/月夜のチェリーボーイ/ハッピーゴーラッキー!/四谷渋谷入谷雑司ヶ谷!!

私が出逢った最初のあとり硅子さん作品です。

コミックスの表題作である「夏待ち」のコミカルなのに胸があったかくなる感じが大好きで、何度も何度も読みました。

他にも「sea green」のしっとりキラキラした画面とお話は本当に大好きです。

「ドッペルゲンガー」1996年発売

コミック掲載作品:ドッペルゲンガー/犬夜/ストレンジャー/藍色の夜/四ッ谷渋谷入谷雑司ヶ谷!!

私自身は、あとりさんのお話をずっとコミックスで読んでいました。

1本読み切り系のお話を描かれることが多いと思っていたため、表題作の「ドッペルゲンガー」が連載のお話だっと知って、本誌で読みたかった!と思ったのを思い出します。

こちらのコミックの「ストレンジャー」というお話に出てくるカナちゃんという女の子も強くてかわいくて大好きです。

「光の庭」1997年発売

コミック掲載作品:光の庭/蜜月/マイ・トゥインクル・リトル・スター/月と放火魔と黒い七匹

表題作の「光の庭」は私のツボをぐいぐい押してくれました 笑。

この作品を読むと、自分自身も高校生の頃、試験前にUFOにでもさらわれないかと思っていたことを思い出します 笑。

「これらすべて不確かなもの」1998年発売

コミック掲載作品:これらすべて不確かなもの/天色神殿/やまつみのころびね/猫とUFO

表題作の「これらすべて不確かなもの」に登場するかっとんだ?ぶっとんだ?お父さんが何だか憎み切れないキャラで、今でも大好きなキャラの1人です。

あとりさんの描く女性は強くて自立した人が多いので、それも私がずっとあとり作品のファンでいる理由な気がしています。

「四ッ谷渋谷入谷雑司ヶ谷!!(全2巻)」1巻:1999年、2巻:2004年発売

コミック掲載作品:四ッ谷渋谷入谷雑司ヶ谷!!

最初は1Pのギャグマンガとして、コミックスにはお話とお話の間で挟まれていた「四ッ谷渋谷入谷雑司ヶ谷!!」の(本当に)待望のコミックス。

2巻は雑誌でも告知がなく、本当に突然発売された!という感じだったそうです。

きっとこのコミックスをまとめるにあたって、あとりさんは病身をおして作業をされていたのでは……と今になるとそう思います。

「黒男」2001年発売

コミック掲載作品:海の時計/ともだちにあいに/夜のあしおと/黒男/ラルゴ/ラルゴその後/let me know/ぶどうの瞳/ぶどうの瞳その後

ややBL色のあるコミックスだそうです(私自身はそこまで想わなかったのですが)。

「ぶどうの瞳」というお話の登場人物が、黒い瞳のことを“まるくて黒い葡萄の実”と表現しています。

この黒い瞳に対する表現の仕方が今でも大好きです。私の想像ではピオーネとか巨峰の実って感じですね。

「ばらいろすみれいろ」2004年発売

コミック掲載作品:クピド/こころの実/オムレツの月/ばらいろ すみれいろ/シンプルデイズ/not for you/ひとさらい/最終兵器

あとり硅子さんのコミックスとして最後の1冊になった本です。

「ひとさらい」というお話は2004年4月号の雑誌「Wings」に掲載された作品ということなので、雑誌発売からわずか4ヶ月ほどであとりさんが旅立ったのかと思うと、本当に胸が苦しくなります……。

あとり硅子さんの作品に感じること

私は小学1年生の時に「りぼん」という漫画雑誌を読み始めて、そこからジャンル問わず色々な漫画を読みました。

たくさんの漫画と出逢う=様々な個性のある作家さんと出逢うことでもあったと思います。

素晴らしい画力のある作家さん、お話の構成が神がかっている作家さん、キラキラした表現がとっても上手な作家さん……と様々な作家さんの作品を読んだと思っています。

そんな私が出逢った作家さんの中でも、あとり硅子さんは“空気感を表現するセンスが秀逸”な作家さんだったと思っています。

あとりさんの作品に流れる清涼感

私は、絵や文章で空気感まで伝えるというのは技術というよりセンスだと感じています。

どんなに画力があっても、お話の構成力がすごくても、その場の空気感を伝えるのってすごく難しいと思えるのです。

もちろん画力がすごいのも、お話が巧みであるのも、素晴らしい能力と努力のなせる業だと思っています。

でも“雰囲気のある絵”とか“雰囲気のある表現”って努力をしただけでは身につかなくて、もともとその人がもつ“洞察力”だとか“観察眼”がいかに鋭いかにかかっている気がするのです。

例えばフワフワとして羽根1枚を描いても、画力があればその羽根がフワフワとしていること自体の表現はできるでしょう。

しかしその羽根がどういった空気や空間の中でフワフワしているのかは、ちょっとしたセンスの違いで伝わり方が違うと感じます。

こういった点において、あとりさんの“その場の空気感を伝えるセンス”は非常に高かったように、私は思っています。

そして、その空気感の中に、いつも清涼感と温かみがあって、読んでいる人はとても心地よい風に吹かれているような感覚になれる感じがするんです。

あとりさんの作品には女の子が少ない?

この記事を書くにあたって、あとりさんの作品を1つ1つ全て読み返しました。

そこでふと気づいたのですが、あとりさんの作品には女の子が主人公の作品ってとても少ないんですよね。

先述でご紹介しているあとりさんのコミックスと収録作品では、女の子が主人公になっているのは「眠れない夜」と「月夜のチェリーボーイ」くらいではないでしょうか。

ただ、それについて私がネガティブなことを思っているかというと、全くそんなことはありません。

先ほど挙げた「眠れない夜」と「月夜のチェリーボーイ」は“かれん”という女子高生が主人公なのですが、このかれんさんが本当に強くて気持ちいいくらい自分の心に正直。

ちょっとバイオレンスなところもある女の子なのですが、女子高生ではあっても男の子の目線とかを全然気にしてなくて、精神的に自律してるんですよね。

他にも「ストレンジャー」に登場する花名ちゃんという子も、強くてはっきりしてて素敵です。

「光の庭」に登場する黒田さんは、かれんさんや花名ちゃんに比べると大人しい感じがしますが、賢くて自分の意志はしっかりもってる感じです。

男の子によって変えられる女の子ではなくて、女の子が一個人として自分の考え方と意識の方向性をしっかりもっているところが、私にとってはすごく気持ちよく好感が持てた部分でもあります。

人間以外の存在がたくさん登場

あとりさん自身もコミックスのあとがきなどに書かれていますが、自分の作品には“人外のもの”が登場しまくってると仰っています。

確かにあとりさんの作品には宇宙生物をはじめ、幽霊や人魚、神様や魔法使いなどちょっと不思議なキャラクターがたくさん登場します。

これだけだとすごくファンタジー色が強い気がしますが、こうしたファンタジーなキャラが登場しつつも、自分たちの生活に身近な、気持ちに身近なお話が紡がれているのは素晴らしい才能だと思います。

これは私の勝手な印象ですが、実は私はあとりさんのコミックスを最初に購入した当時から、あとりさんに対しては「少し病気などをしやすい方なのかな」と感じていました。

なぜなら、あとりさんの描く優しさは、心身の痛みを知る人こそが紡げる優しさな気がしたからです。

あとりさんご自身が「自分は一般的な健康な人とは違う」という思いを心にもっておられたから、「普通じゃない」登場人物にも作品にも、現実的な血が通っているように思えていたのです。

多くの不思議なキャラを描きつつ、その全ての作品の根底には“そこに在るものを愛そうよ”という河が流れると、今もそう思っています。

あとり硅子さんの作品はずっと宝物です

これまでに進学とか引越し、結婚や出産など色々とライフイベントを経験する中で、ちょっとした図書室でも開けそうなほど集めていた漫画を手放す機会が何度かありました。

でも、あとり硅子さんのコミックスはどうしても手放せず、ずっと手元にあって、一緒に人生を歩んでいってもらっています。

2004年に、あとりさんがご逝去されたことを知った時のショックは今も心をギュッと締め付けます。

そして……もうあとりさんが新しく作品を編むことがないのかと思うと、本当に惜しくて仕方ありません。

しかし、あとりさんが遺してくださった作品は、今でも、そしてこれからもずっと私の宝物として生き続けてくれます。

もう少し子ども達が大きくなったら、自分からあとりさんの作品を読んで、そして自然な形であとりさんの作品を好きになってくれたらいいな、なんてことも思ったり……。

高校生だったあの日、本屋さんであとりさんの本に出逢えたことは、本当に幸せな出逢いでした。

あとりさん、たくさんの素敵な時間をありがとうございます!

これからも、きっと私は何度も何度も、あとりさんの作品を読み返しますよ!!

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