今回ご紹介するお話はあとり硅子さんの「seagreen」。
このサイトでは、あとり硅子さんの作品は別記事にて一覧で一度紹介しています(詳細はこちら)。
が、あとり硅子さんの作品については、1つ1つご紹介したいと思ったので順次ご紹介していくことにしました。
今回ご紹介している「seagreen」はWINGS COMICS『夏待ち』に収録されています。
今のように漫画の「デジタル制作」が(ほぼ)なかった頃の作品ですが、画面はキラキラと美しく、波間の「光の粒」も見えるようです。
随所に「クスッ」となるおかしみを含みながら、あとりさんご自身のもつ「根っこの考え方」はどの作品もブレません。
その「根っこの考え方」とは「誰にも温かい」ということ。
「やさしいせかい」がお好みの方はぜひ、あとり硅子さんの作品に触れてみてください。
「seagreen」
今日ご紹介している「seagreen」の初出は「ウィングス」’95年 2月号です。
このお話はWINGS COMICS『夏待ち』に2作目として収録されています。物語の主人公は海辺の王国の王子、サライ。
「seagreen」が収録されているコミックス『夏待ち』には本作以外に、次の作品も収録されています。(※リンクがついているものには、詳細を書いた別記事があります)
・夏待ち
・英雄
・眠れない夜
・月夜のチェリーボーイ
・ハッピーゴーラッキー
・四ツ谷渋谷入谷雑司ヶ谷
上記のうち、「眠れない夜」はあとり硅子さんのデビュー作で、「月夜のチェリーボーイ」はその続編となっています。
後に単独でコミックス化される「四ツ谷シリーズ」の初期作品もこのコミックスで読むことができます。
あとり硅子さんについては、Wikipediaでどうぞ。
「心の中で覚えておけばいい」
「seagreen」の主人公は海辺の王国の王子、サライ。
美しい緑の瞳を持つ、容姿端麗な少年王子です。
幼少の頃から「珍しいもの」が好きなサライ王子は、長じてもその趣味嗜好が変わりませんでした。
むしろ、大きくなってからの方が「珍しもの好き」の度合いが強くなっているような……。
そんな彼は「変わったものがある」と聞けば、使いをやっても買い取らせるほど。
しかし彼は王子ですので、もちろんその支払いは「国民の血税」。こうした王子の態度にいつも怒っているのが、彼の侍従「カキ」。
カキは王子が商人から怪しげな商品を買おうとするたび、それを阻止し、王子を諫めています。
ただ、そんなカキの心痛と胃痛をしり目に、王子は「あと一人」と言って、「人魚のうろこを持ってきた」という男に会うことに。
この男は代金として、お金ではなく「王子のつけている指輪」を求めます。
この指輪、実は王子の祖母の形見。
カキは当然、この要求を退けますが、王子はあっさり了承。形見の指輪と人魚のうろこの交渉はあっさり成立してしまうことに。
けれども、この交渉をどうしても認められないカキは、指輪をもって去った男を追っていきます。
「人魚のうろこを持ってきた男」はなぜ、サライ王子の指輪を要求したのか?
サライ王子は祖母の形見である指輪を、なぜすんなり渡すことができたのか?
この謎が解ける時、あとりさんがその心の中でいつも大事にしているものが、見えてくる気がします。
本人にとっての幸せ
この物語では回顧場面にしか出てきませんが、サライ王子の祖母「エレノア」はとっても自由奔放に、心のままに生きた人のようでした。
そして、何より情熱をもって。
自分の「好き」とか「面白そう」、「楽しそう」という気持ちに素直にいることは、きっとそのまま「人生を楽しく生きること」につながると思います。
だからと言って、誰もかれもがサライ王子のように自分の興味の赴くままに欲しいものが買えるわけではありません。
ただ「物を得る」ということに着目するのではなく「自分を楽しくするものに興味を抱き続ける」という部分は、誰でもすぐに、始めることができると思います。
誰かの目を気にしたり、自分が何か行動を起こさないことを誰かのせいにしたり、そんな時間はきっと自分自身をつまらなくさせます。
自分の心が躍りワクワクすること。そしてそうして躍動する心をもっていられること。
これを大切に、心を大切に生きることはとっても楽しいのだと、この物語は教えてくれます。
早く年とろーが 寿命が短くなろーが 本人が幸せなら カンケーないのかもねぇ
『夏待ち』P87
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