物語は死神から始まる|昭和元禄落語心中#1巻

漫画紹介

其の一:なんなんです、この与太郎は

『昭和元禄落語心中』、1話目は物語が「棟上げ」されます。

主要な登場人物たちの性格、立ち位置、視点が、それぞれの仕草や話し言葉の端々から垣間見えてくる1話目です。

ムショあがりの「与太郎」が次の人生の一歩として突き進んだのは八雲師匠の下。

まるで犬っころでも拾うように、周囲の見方とは裏腹に与太郎を弟子入りさせる八雲師匠。

八雲師匠の家には、松田さんという身の回りのお世話をする初老の男性と、何やら訳ありげな小夏という若い女性がいます。

弟子として八雲師匠の家に居候することになった与太郎は、身近に敬愛する八雲師匠と、師匠の落語を溢れさせながら日々を過ごしていきます。

しかし気になるのは「小夏と八雲師匠」の仲の悪さ。これはもう、仲が悪いというより因縁に近い感じ。

そんなある日、与太郎は小夏が落語の真打になるべく努力していることを、八雲師匠に伝えます。

小夏も何とか、八雲師匠に頭を下げようとしますが……。

小夏の父である「故 有楽亭助六」の存在が、与太郎にも大きく関わってくるそんな1話目。

このカットが好き!

講談社から出版されている『昭和元禄落語心中』1巻、15ページの1コマ目。

小夏さんの意気の良さと生まれ育った環境をまとう雰囲気が素晴らしく醸し出されているコマ。

目つきも、膝の位置も、手の角度も、小夏さんっぽさが充満されていて大好きです。

其の二:どうにかしようなんて 思っちゃいけません

其の一の最後で小夏から放たれる言葉は、物語の核心に触れる内容です。

なぜ、小夏は「そんなこと」を八雲に言い放つのか。

なぜ、八雲は小夏から「そんなこと」を言われなければいけないのか。

二人の間にある溝には「助六」が横たわったまま。

与太郎のあずかり知らぬところで八雲と小夏の人生は絡んでいるわけですが、其の二では少し八雲の家を離れ、舞台は京都へ。

八雲は上方落語の重鎮「萬歳師匠」と夏の二人会へと出かけます。

そこにお供する与太郎は「オイラ旅行なんて生まれて初めてだぜ」と浮足立ってワクワク。

ただ、京都での「二人会」では萬歳師匠の体調の芳しくない様子がわかり、落語界には未来に対する薄暗い影があることがわかります。

しかし京都から東京へ戻った与太郎は八雲から「前座」へ進むことを許されるのでした。

このカットが好き!

『昭和元禄落語心中』1巻、67ページ中央のコマ。

八雲が三条の川床で遠くを見つめているシーンです。

川床を本当に楽しむのであれば、貴船の方へ行くのでしょうが、このシーンでは街の光が見えているのでおそらく鴨川沿いの三条。

ここからならヘッドライトや街中の灯りを見ることができます。

京都は言わずと知れた古都ですが、そこにあっても時代の変容はもちろんあり、街並みも時代と共に変わっています。

落語の行く末を古都の風景を重ねながら語る八雲の姿にしんみりする、そんな一コマです。

其の三:いまをキチッと生きてりゃあ

京都から戻り、晴れて「前座」の身となった与太郎は高座にあがることを許されます。

しかし、来る日も来る日もお客さんからもらうのは「失笑」ばかり。

「今日もまた全ッ然うけなかったぜ」

と嘆く与太郎は、それでも内弟子として日々師匠について回り、寄席で雑仕事をこなしていきます。

そんな与太郎の話と並行して、小夏×八雲の「わだかまり」も少しずつ明らかになっていきます。

ただ、このわだかまり、八雲からすると「わだかまり」というより成仏させきれない心中の複雑な思いという気がします…。

一方の小夏からすると、この「わだかまり」は恨み。

なんせ大好きで、落語の上では憧れの存在の父親を八雲に奪われたと思っているのですから。

しかしある日、座敷で二人、己が心の内を吐露するにあたり、お互いが「助六」を心の中で大切に生かしていることを共有し……。

ここからの小夏、八雲の「心の距離」の変化は、今後「八雲と助六篇」を挟んで再開する「助六再び篇」を収める5巻への伏線となっているのでした!

このカットが好き!

其の三での私の推しカットは、104ページの3コマ目です。

八雲が小夏を前にして、助六の落語を演じる場面への切り替わりのコマ。

効果音、手の位置、そして吹き出しの位置と、ここからの助六への変化(へんげ)が見事に表現されていると個人的には感じます。

103ページまでの小夏の感情の昂ぶりを、このコマの効果音がスッと退かせて、別口の感情を揺さぶってくる。

漫画は電子で読むのも大好きなのですが、紙面で、自分の視線の位置(アングル)込みでコマを送り堪能するのが、やっぱり大好きなのでした!

其の四:兄貴分としての人間の義務

其の三まで、小夏×八雲の過去には何やら並々ならぬ事情があるのはわかってきています。

しかし、実はバックグラウンドとしては結構いろいろあるはずの「与太郎」の過去はあまり語られてきませんでした。

なんたって与太郎は「模範囚なのに満期で出所(詰まるところ身寄りがない)」という人間です。

刑務所に入った理由は「おつとめする代わりに組を抜ける」ため。

お話の中では多く語られていませんが、きっと苦労も悪事も重ねてきた人生を送ってきたはずです。

そんな与太郎の過去が、ついに其の四で語られます。

与太郎が組にいた時代の「兄貴分」の登場。

彼は与太郎が身を寄せる八雲亭にいきなり現れ、八雲をまたヤクザの道に引きずり込もうとします。

一緒にいた小夏は「さっさと断っちまいな」と言いますが、兄貴分の一喝に小夏ですら身震いしてしまう様子…。

このまま与太郎は落語の道から抜けてしまう……?

……と、そんなわけはなく、そこに八雲師匠が登場し、兄貴分に与太郎の落語を聴かせることにします。

「お前さんの全部込めてなあ くだらねえ落語 聞かしてやんなよ」

八雲に発破をかけられ寄席へ向かう与太郎。

けれど、実はこの時期の与太郎は「どうやったらお客に届く落語ができるのか」という沼にはまりきっている頃でした。

兄貴を笑わせたい。

この思いを胸に高座へあがる与太郎の落語は、果して兄貴に届くのでしょうか。

何かが吹っ切れ、脱皮する瞬間のみられる、其の四。

この「其の四」で「昭和元禄落語心中」の1巻は〆られます。お次は2巻へ。

このカットが好き!

其の四で好きなのは146ページの4コマ目。

初めて「お客に受ける落語」ができた与太郎が、その興奮冷めやらぬ様子で八雲と話すシーンです。

実はこのカットの他に143ページ最後のコマも大好きなので……今回はどちらにするか迷いましたが。

落語が楽しい!という気持ちを腹の底から感じる流れが、142ページから徐々に高まっていく与太郎の落語シーンは
見ているこちらもドキドキします。

ほとばしる汗が、キラキラとした気持ちまで表していて「ああ、好きなことに夢中って美しい」と思えます。

何より、スランプに陥っていた与太郎が「水を得る」体験を一緒にできることに喜びを深く感じるシーンなのです。

昭和元禄落語心中(1) (ITANコミックス)

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