今回ご紹介するお話はあとり硅子さんの「月夜のチェリーボーイ」。
このサイトでは、あとり硅子さんの作品は別記事にて一覧で一度紹介しています(詳細はこちら)。
ただその後、あとり硅子さんの作品は1つ1つ、それぞれの記事で紹介していくことにし、今回は5作目となるあとりさん作品の紹介記事です。
今回ご紹介している「月夜のチェリーボーイ」はWINGS COMICS『夏待ち』に収録されています。
この「月夜のチェリーボーイ」は「眠れない夜」というはあとり硅子さんのデビュー作の続編となっています。
「月夜のチェリーボーイ」
今回ご紹介している「月夜のチェリーボーイ」の初出は「ウィングス」’94年 3月号です。
このお話はWINGS COMICS『夏待ち』に5作目として収録されています。
このコミックスのP.134に今作の「タイトル」にまつわるあとり硅子さんのコメントが描かれているのですが、それが面白い!
コミックスは「その時」の作者さんの空気感が詰まっているので、作者さんに親近感を得ますよね。
さて「月夜のチェリーボーイ」が収録されているコミックス『夏待ち』には本作以外に、次の作品も収録されています(※リンクがついているものには、詳細を書いた別記事があります)
・夏待ち
・seagreen
・英雄
・眠れない夜
・ハッピーゴーラッキー
・四ツ谷渋谷入谷雑司ヶ谷
あとり硅子さんについての詳細は、Wikipediaでどうぞ。
あんたの気合がたりないのよ!!
前述しましたが、「月夜のチェリーボーイ」は「眠れない夜」という作品の続編です。
ただ続編と言えども、どちらのお話も読み切りなので物語自体が繋がっているわけではありません。
さて「月夜のチェリーボーイ」の主人公は高校2年生の女の子、日比野かれんさんと、その友人の薬師丸くん。
腐れ縁的な仲の良さの2人ですが、どちらかと言えばかれんがご主人様で、薬師丸くんが家来……といった感じでしょうか。
この2人は「霊感」を持っていますが、かれんさんは「見えるだけ」、薬師丸くんは「聞こえるだけ」という、本人たちいわく「使えない」霊感の持ち主です。
前作「眠れない夜」で、霊感を駆使?してとある事件を解決した2人は、人知れず「日比野かれんと薬師丸は霊感を使って除霊をしているらしい」という噂が広まっていました。
この噂を聞きつけたのが「安藤先生」という現国のおじいちゃん先生。
安藤先生は(あまりにも悪い)かれんさんの現国の成績を「多少考慮」する代わりに、夜の学校に出没するという少年の霊を何とかするよう、かれんさんと薬師丸くんに依頼に来ます。
最初は断ったかれんさんと薬師丸くんですが、安藤先生の押しの強さに「少年の霊と対峙すること」を約束します。
そして夜の学校で「少年の霊」を待つ2人の前に、少年の霊は隠れることなく姿を現します。
彼は「脱童貞」をしないまま、不慮の事故で人生が終わってしまったことをとっても嘆いています。
理由を聞いて動揺する薬師丸くんをしり目に、かれんさんは「童貞捨てられれば成仏するなら私が協力するわよ」と言い始めます。
このことにも大きく動揺する薬師丸くんは「いくらなんでもそれはダメだよ!」とかれんさんの行動を止めます。
一方のかれんさんは何か策があるのか、薬師丸くんの焦りをよそに少年霊に「どっからでもかかってきなさい!」と胸を張ります。
さぁこの後、かれんさんは本当に少年霊の「脱童貞」に協力することになってしまうのでしょうか……?
かれんさんの「自己犠牲」の裏には徹底した計算がある
「かれん×薬師丸」コンビでの2作目となる「月夜のチェリーボーイ」。
先項でも書いていますが、少年霊を成仏させるため、少年霊の望みに身を挺して協力するかのように見えるかれんさん。
ですが、かれんさんは純粋に「自分の身を挺して」なんて考えていません。
当然、自身の安全の保障を算段した上で提案しています。
かれんさんの「自分の幸福は絶対に守る」という姿勢は清々しく気持ちが良いです。
時により、誰かの力になるようには動くけれど、根底には「自分の幸せ」を最優先する気持ちをもっているかれんさん。
こうした姿勢は行き過ぎると自己中心になるのかもしれませんが、彼女くらい自分の意志を主張する姿勢がないと「空気を読むこと」を是とするこの世の中では自分をすり減らし過ぎてしまう気がします。
相手の要求に対して自分がどこまで許容できるか、どの一線を越えると自分が不幸せになってしまうのか、ここを計算する力は人生を幸せに生きていくためにとても必要なものではないでしょうか。
アタシだったらスパッと気持ちを切り替えて
あの世での幸福を追求するね!!『夏待ち』P.146
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