今回取り上げる作品は 吉野朔美さんの「いたいけな瞳」シリーズ内の1つのお話。
小学館文庫版「いたいけな瞳」の第3巻に掲載されている「恐怖のおともだち」です。
吉野朔美さんの作品は、精緻な描写が好きな方、作品の「余韻」を楽しみたい方におすすめ。
他にも、純文学を「絵で」楽しみたい、という方にも、おすすめと思います。
吉野朔美さんの作品は「純文学」と言える作品がとっても多いので。
個人的には、「宝石の国」シリーズを描かれている市川春子さんがお好きな方にもおすすめ、と感じています。
「恐怖のおともだち」
今回取り上げている「恐怖のおともだち」という作品は、「いたいけな瞳」というシリーズの中の1つ。
「いたいけな瞳」というのはオムニバス形式の物語で構成されているシリーズで、物語の世界観が「どこかで」リンクしているものも多くあります。
作品が掲載されていた雑誌は『ぶ~け』。
「恐怖のおともだち」が初出で掲載されたのは『ぶ~け』平成3年9月号になります。
また「恐怖のおともだち」の収められている小学館文庫版の第3巻には、次の作品も収録されています。
・ジャングル・フラワー
・淡水魚
・いつも心にスキップを
・天使の祝福
・犬
・夢喰い
吉野朔美さんについては、Wikipediaの方がずっと詳しいので、そちらをご覧くださいませ。
「対処できれば恐怖は消えます」
「恐怖のおともだち」の主人公は、あかりくん、という小学生の男の子。
そしてもう一人。入院中の母親に代わってあかり君の家の家事をしている、白玉、という名の家事代行兼シッターの女性がこの物語の鍵人物です。
超が付くような怖がりのあかりくんは、生傷の絶えない白玉の言動一つひとつに、日々戦々恐々としています。
額を切ったら、その傷を広げて「傷の中」を見る白玉。
お父さんも嫌がるゴキブリを、瞬き一つしないで叩き潰す白玉。
あかり君にはこの世に怖いものなんてないように見える白玉ですが、そんな彼女が、弱気で怖がりのあかり君に言います。
「対処できれば恐怖は消えます」
「いたいけな瞳」第3巻 P48
と。
怖いもの、というのは、その正体を見据えないからこそ、怖くなるんだよ、と。
そしてこのようにも言います。
「怖がりでない人達は 平気で怖いことをするので 早死にする確率が高い」
「いたいけな瞳」第3巻 P.58
あかり君はこうした白玉の言葉を聞きながら、自分の日常を少しずつ、変えていきます。
ただただ怖くて従うしかなかった6年生に対しても、彼らの「行動」を真っ直ぐ見つめて、あかり君は立ち向かいます。
『ぶ~け』本誌でこのお話を読んだ当時まだ小学生だった私は、あかり君が6年生に立ち向かった時に放った言葉に、その後の人生、何度も奮い立たされました。
その言葉は決して「名言」ではないかもしれませんが、あかり君が恐怖に立ち向かって叫んだ言葉は何か、ぜひあなたも、作品の中で確かめてみてください。
恐怖に克つ強さ
「恐怖のおともだち」。最後のページまでたどり着いたら、最初はちょっと「怖がりすぎてうざかった」あかりくんを、讃えたくなります。
「恐怖のおともだち」を読むと、恐怖に克つ方法が少しばかり体得できた気になります。
恐怖は「原因」を把握し、「対処」すれば良いのです。
「幽霊の 正体見たり 枯れ尾花」
白玉はきっと、この川柳にあるような考え方を、日常への冷静な分析で自分のものとした人。
自分の恐怖心の原因は何か、それを見極めたらきっと昨日よりつよい自分になれる。実際私はそうでした。
つよい心を持つ人は、誰かを貶めることで、自分の立ち位置を確保したりしません。
今こそ、白玉のような心とあかり君の勇気を、たくさんの人が知るといいなと、思うのです。
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