【おすすめ漫画紹介】「22XX」清水玲子さん

漫画紹介

「輝夜姫」や「秘密」などのヒット作が知られる清水玲子さん。

非常に精緻で優雅&耽美な世界観が多くのファンを魅了している漫画家さんです。

今回はそんな清水玲子さんの作品から「22XX(文庫版)」をご紹介していきます。

「22XX」の基本情報

「22XX」が初出で雑誌に掲載されたのは1992年(平成4年)だそうですが、文庫版に収録されているのは初出のものに加筆し1993年(平成5年)に雑誌に掲載されたもののようです。

私が現在持っている文庫版には「22XX」の他に下記4つの物語が収録されています。

・「世紀末に愛されて」
・「夢のつづき」
・「8月の長い夜」
・「ロボット考」

清水さんの作品の中でかなり好きな「22XX」なのですが、実はこの文庫に同時収録された「夢のつづき」も私はかなり好きな作品です。

電子書籍版「22XX」

食べるための、いのち

「22XX」の主人公は、「ジャック&エレナ」シリーズで人気を誇ったロボットのジャックです。

ロボットではありますが、未来を舞台にしている作品ですし、外見も知能も全く人間と変わりません(というよりロボットである分、ジャックの方が人間より優秀でしょう)。

そんなジャックがエレナと出逢う前のエピソードとして作られたのが「22XX」で、この物語で彼は誘拐されたある王女様を救出すべく、「メヌエット」という惑星に来ています。

この惑星には「フォトゥリス」と呼ばれる人たちが暮らしているのですが、この人たちは「人肉食」を文化として持っています。

これだけでも結構衝撃なのですが、物語の中、この世界観においてはフォトゥリスの人肉食は暗黙の了解で認められている設定。

なので、彼らの住む森でフォトゥリスによる「食べるための殺人」が起こっても、誰も捜査なんてしてくれないんですね。

ただ、この物語はカニバリズムを推奨しているとか人肉食を容認しているという話ではありません(もちろんですが)。

この物語の冒頭には、ラルフ・ウォルド・エマーソンの言葉が引用されてます。

その言葉とは次の通りです。

「あなたはいま食事を終えた。そのことで良心の呵責を覚えないように、屠畜場ははるか離れた人目につかない場所にある。しかしあなたも共犯なのだ。他の動物の犠牲の上に生存しているのだから」

出典:草思社刊『死の病原体プリオン』/著:リチャード・ローズ

この物語に登場する人肉食を文化として持つフォトゥリス人は、何も自分の欲求を満たすために人肉を食べているのではありません。

彼らは人に限らず、食事のためにいただく命に対して「その命の分も懸命に生きる」という信条を根底に抱いています。

だからこそ、物語の中でジャックと行動を共にするルビーという名の少女は、人肉食について

「その人の知識・理想・美点を自分のものにすることが出来る/受け継ぐことが出来るんだ」

と語ります。

そしてこう言い切るのです。

「ただ私の願いはそうやって受け継いできた大切な私の命を いつか生まれる私の子供にちゃんとひきわたすこと」

このお話を読み通して、私は「自分はどのくらい、自分の命を繋いでくれた他の命に思いを寄せてきたのか」と非常にショックを受けました。

食べ物を粗末にしないとか、このお肉はもとは鶏だった・豚だったと頭で理解していても、本当のところ、心の芯からそのことがわかっていなかったのではないかと、とても恥ずかしくなったのを覚えています。

私は田舎育ちで、釣り好きの父もいたので、魚をさばくところなんて日常の風景としてあったのに、その魚が海を泳いでいて、釣られなければ子孫を残していたということに、実のところ全く想いが及んでいなかった

このことを真正面から突き付けられて、本当に頭を殴られたくらいの気持ちでした。

フィクションだからこそ訴えられる「本当」に出逢えたとても貴重な経験でした。

ジャックと少女ルビーの物語については、本当にぜひ自身の目で確かめて、心で感じてもらいたいと思います。

ハッピーエンドとは言えない結末ですが、それでもこの物語をしっかり読むことで、読後からの日々はきっとそれ以前より豊かになると思います。

「夢のつづき」

さてこの「22XX」の文庫版に同時収録されている「夢のつづき」というお話があるのですが、清水さん自身は文庫本の最後にこの物語について

「(物語作成当時の)苦しい記憶が甦るので、あまり見直さない作品です。」

と言葉を残しておられます。

しかし、清水さんにとってちょっとビターな気持ちになる作品でも私にはなかなか心に残る作品だったんですよね。

この物語に登場する超絶お嬢様のアイリさんはかなり無茶な要求で、銀河一のトップスターを自分のもとに連れてきます。

設定的にはハチャメチャ感があるのですが、私はこのアイリさんが発した言葉に目からウロコ状態になりました。

優れたルックスと美声をもつロックスターのマーティに、アイリさんはこう言います。

「マーティだって苦労してその声と顔を手に入れたわけじゃないでしょ?/あたしも同じなの/金持ちの家に生まれたことが私の唯一の才能なの」

これには中学生の自分は本当にびっくりしました 笑。

でも、そうか、そうだよな、とも思ったんですよね。

もともと美しい人・もともと何かとびぬけた才能を持つ人は(もちろん努力はしたとしても)その美貌や才能を苦労して手にしてはないかもしれません。

なら生まれながらに大富豪の家に生まれて、苦労せず得たお金がたくさんあることは、大富豪の娘にとっては「才能」と言えるのかも……。

お金が有り余るほどなければ、お金を(なんの糸目もつけず)自由に使うという振る舞いはできません。

お金を使う才能というのもまたあるのかもしれないな、と。

この潔いほどの突き抜けたお嬢様(セレブ)感が、自分の視野とか世界観をまた1歩広げてくれたという意味で「夢のつづき」は自分にとって忘れられない作品です。


おわりに

今回ご紹介した「22XX」は若い時に出逢って良かったなぁと思える作品でした。

もちろんどの世代のどんな方が読んでも何か心に刺さる「ドキリ」を残してくれる作品だと思います。

最新のお話ではありませんが、古今に関わらず名作は多くありますよね。

漫画が発展している日本では、こうした漫画だからこそ描けた名作が本当にたくさんありますし、私にはこれはとってもありがたいことです。

これからも数多くの名作がたくさんの人の心と人生を豊かにすることを祈りつつ。

いつか「イティハーサ」について語りたいなぁ 笑

書籍文庫版「22XX」

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